平成十五年十月三日提出
質問第二四号


提出者  川田悦子


 日中戦争時に中国でペストやコレラ等の細菌兵器を開発し、細
菌戦を行ったとされる七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関して次の事項について質問する。
一1 政府は、七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部が、中国で細菌戦を実行したことを事実として認識しているか。
 2 政府は、前記細菌戦によって中国の一般市民に被害を与えたことを事実として認識しているか。
二1 政府は、七三一部隊等が中国で行った細菌戦について、事実調査及び被害調査を行うつもりはあるか。
 2 中国では、日本軍の細菌戦から六十年余が経過した現在でも、浙江省衢州市等では、毎年ネズミでのペスト疫学調査等の被害調査が続けられている。日本は、中国におけるこれらの被害調査に協力するべきであると考えるが、政府の見解を問う。
三1 外務省公開文書の中に、一九五〇(昭和二五)年二月三日付の「細菌戦に関する戦争犯罪」と題する論文があるが、筆者の榎本重治及び論文の保管者と思われる「吉村課長」の同論文作成時の役職並びに同論文作成の目的を明らかにされたい。
 2 一九九八年四月、ロシアのエリツィン大統領が橋本首相(両者とも当時)との静岡県伊東市川奈での会談の時、旧ソ連時代の日本人関係文書を持参したが、この中に七三一部隊等に関する文書があったか明らかにされたい。
 3 2に該当する文書がある場合には、文書の標題、作成者、作成日付、要旨を明らかにされたい。
 4 一九三七年から一九四五年までの間の外務省・ハルピン日本領事館間の七三一部隊に関する電報及び報告文書が保管されているか明らかにされたい。
 5 4に該当する電報または報告文書が保管されている場合には、その表題、作成者、作成日付、要旨を明らかにされたい。
 6 中国における日本の在外公館から外務省に送られてきた一九三七年から一九四五年までの「伝染病週報」および「伝染病月報」が保管されているか明らかにされたい。
 右質問する。


答弁本文情報

平成十五年十月十日受領
答弁第二四号

  内閣衆質一五七第二四号
  平成十五年十月十日
内閣総理大臣 小泉純一郎

衆議院議員川田悦子君提出七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関する質問に対する答弁書


一について
 いわゆる七三一部隊が旧日本軍の関東軍防疫給水部のことであること及び他の旧日本軍部隊にも防疫給水部が存在したことは、旧日本軍の関連資料を保管し、公開している防衛庁防衛研究所図書館に保管されている文書から明らかとなっている。
 しかしながら、外務省、防衛庁等の文書において、関東軍防疫給水部等が細菌戦を行ったことを示す資料は、現時点まで確認されていない。
二について
 お尋ねの細菌戦に係る事実調査等については、本件の性格や時間的な経過にかんがみれば、更なる調査を行い、明確な形で事実関係を断定することは極めて困難と考えるが、新たな事実が判明する場合には、歴史の事実として厳粛に受け止めていきたい。
三の1について
 お尋ねの論文は、第十四回外交記録公開において公開した資料の中に含まれているものであり、当時の吉村又三郎外務省連絡局調査課長によって保管されていた執務参考資料と思われる。同論文の執筆者である榎本重治氏の当時の役職は明らかでないが、同氏は戦前に海軍大学教授、海軍書記官等を務めていた。また、同氏が同論文を作成した目的については、明らかでない。
三の2及び3について
 平成十年四月十九日の日露首脳会談において、エリツィン大統領(当時)より第二次世界大戦当時の将校等に関する資料であるとして、十四件、計二百八十六頁の文書が橋本内閣総理大臣(当時)に手交された。その内容は、旧関東軍の将校数名の調書等であるが、同文書に関東軍防疫給水部等に関する記述はない。
三の4及び5について
 お尋ねの電報等は、外務省においては保管されていない。
三の6について
 お尋ねの伝染病週報及び伝染病月報については、昭和十七年までのものが外交史料館において公開されているが、昭和十八年から昭和二十年までのものは外務省においては保管されていない。



平成二十四年八月二十一日提出
質問第三七七号

七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関する質問主意書

提出者  服部良一

 国立国会図書館関西館が所蔵している『金子順一論文集(昭和十九年)』(以下、単に「金子論文」という。)は、「雨下撒布ノ基礎的考察」「低空雨下試験」「PXノ効果略算法」等、八本の論文から構成されているが、これらの論文は旧陸軍七三一部隊(関東軍防疫部及び関東軍防疫給水部を指す。以下同じ。)に所属していた金子順一氏(故人)が単独ないし他者と共同で執筆したものである。
 平成二十三年、NPO法人七三一部隊・細菌戦資料センターは、金子論文の中に七三一部隊の具体的活動を示す重要な記述が含まれていることを発見した。また、同年十月十五日、十六日付けの朝日新聞・東京新聞は、金子論文について「旧日本陸軍が一九四〇~四二年、中国で細菌兵器を使用していたことを示す陸軍軍医学校防疫研究室の極秘報告書が見つかった」旨を報じた。
 一方、アジア歴史資料センターがインターネット上に公開している公文書等の中には、未だ研究されていない七三一部隊の活動内容を示す多数の資料の存在が確認されている。
 従って、次の事項について政府の認識を質問する。


一 アジア歴史資料センターが公開している昭和十七年九月二十二日付けの陸密第二七八五号で陸軍省副官川原直一が発した「不健康業務加算ニ關スル件陸軍一般ヘ通牒」には「關東軍防疫給水部(大連出張所ヲ含ム)ニ於ケル左記ノ危險ナル細菌ノ研究檢索並ニ診断液又ハ豫防液ノ製造業務ハ大正十三年内閣告示第二號ノ第二號末項ニ該當スルモノトシテ本年九月十六日内閣恩給局長ノ指定アリタルニ付同部隊ニ在リテ直接該業務ニ從事スル公務員ニ對シテハ右指定ノ月以降恩給法第三十八條ノ不健康業務加算ヲ為シ得ル儀ト承知アリ度 左記 コレラ菌、ペスト菌、チフス菌、パラチフス菌、赤痢菌、流行性脳脊髄膜炎菌及其ノ他危險ナル病原細菌」との記述がある。
 1 右の「危險ナル細菌ノ研究檢索並ニ診断液又ハ豫防液ノ製造業務」で、七三一部隊が行っていた業務とはどのようなものか。細菌の培養やワクチン製造を含むのか。また、右の「其ノ他危險ナル病原細菌」で、七三一部隊で取り扱っていた細菌とは何か。炭疽菌、鼻疸菌、結核菌を含むのか、以上明らかにされたい。
 2 「不健康業務加算ニ關スル件陸軍一般ヘ通牒」に記述されている「同部隊ニ在リテ直接該業務ニ從事スル公務員」で、恩給の加算申請をした七三一部隊員の人数は何人か。加算申請した隊員数を、将校、准士官、下士官、兵、技師、技手、雇員・傭人別にはそれぞれ何名か、明らかにされたい。
 3 加算申請の際、七三一部隊員は「不健康業務」の内容について具体的にどのような内容を申告しているのか。具体的な申告内容で典型的なものはどのような業務内容か、明らかにされたい。
 4 昭和五十七年四月六日、第九六回国会衆議院内閣委員会(同議事録九号)において、政府は七三一部隊の隊員数について、留守名簿に基づいて将校一三三名、准士官・下士官・兵これらあわせて一一五二名、技師・技手あわせて二六五名、雇員・傭人二〇〇九名、合計三五五九名という数字を明らかにしている。以上の七三一部隊の隊員数は、留守名簿の正確な記載か。七三一部隊の留守名簿に基づく将校、準士官、下士官、兵、技師、技手、雇員、傭人ごとの隊員数はそれぞれ何名か。また昭和二十年六月の時点の部隊略歴に基づく七三一部隊のハルビンの本部およびハイラル、牡丹江、孫呉、林口の各支部、大連の出張所の人数及び将校、準士官、下士官、兵、技師、技手、雇員、傭人の人数は何名か、以上明らかにされたい。
 5 七三一部隊の隊員数を示している留守名簿や部隊略歴以外の公文書は何か。その公文書に記載されている七三一部隊の隊員数は何名か、以上明らかにされたい。


二 アジア歴史資料センターが公開している昭和十一年四月二十三日付け陸満密受第五五五号の関東軍参謀長板垣征四郎発・陸軍次官梅津美治郎宛の「在滿兵備充實ニ關スル意見」(陸滿密大日記)の「其三 在滿部隊ノ新設及増強改編」中にある「第二十三 關東軍防疫部ノ新設増強」の中に、「豫定計畫ノ如ク昭和十一年度ニ於テ急性傳染病ノ防疫對策實施及流行スル不明疾患其他特種ノ調査研究竝細菌戰準備ノ為關東軍防疫部ヲ新設ス 又在滿部隊ノ増加等ニ伴ヒ昭和十三年度以降其一部ヲ擴充ス 關東軍防疫部ノ駐屯地ハ哈爾賓附近トス」と記載されている。
 アジア歴史資料センターが公開している関東軍防疫部(部長石井四郎)発、陸軍大臣板垣征四郎宛の昭和十四年八月十日付け陸満密受第一三〇三号の「軍需品調辨價格ニ關スル件」の、「軍機保護上ヨリ見タル寒天」で「本品カ食料品トシテノミナラス〇〇ノ培養基々材トシテ使用セラルルコトハ世界一般周知ノ事實ナリ故ニ軍ニ於ケル之カ大量調辨ハ直チニ〇〇戰ヲ髣髴セシメ我軍ノ企圖〇〇ノ研究、實施機關等ヲ察知セラルルノミナラス、現下ノ如キ現下ノ情勢下ニ於テハ各國共ニ諜報ノ耳目ノ活動活發ナル折柄ナレハ之カ調辨ノ事實及數量ハ絶体ニ秘匿セサル可カラス(後略)」と述べて多量の粉末寒天の購入を申請し、さらにアジア歴史資料センターが公開している昭和十五年九月三十日付けの陸支密第七六号で加茂部隊長石井四郎が陸軍大臣東條英機宛に発した「寒天調辨價格ニ關スル件申請」においても粉末寒天の調達方を要請している。
 右の粉末寒天の購入や前記の「不健康業務」は、七三一部隊の設置目的である「細菌戰準備ノ為」に行われていたものかどうか、明らかにされたい。


三 金子論文の八本の論文のうち、最初に綴じられている「雨下撒布ノ基礎的考察」の「緒言」には、「(前略)部隊ニ於テハ斯カル見地ヨリ既ニ創立以來研究ヲ續ケ、昭和十三年、雨下用法草案トシテ其ノ一端ガ示サレタ所デアル。予ハ昭和十三年秋命ゼラレテ此ノ方面ニ於ケル理論的研究ヲ擔當シ今日ニ到ツタ。此ノ間石井部隊長ノ指導ニ依リ鋭意之ガ基礎實驗ヲ重ネ來ツタガ、顧ミルニ淺學非才何等加フル所ノ無カツタ事ヲ甚ダ遺憾トスル。今般從來ノ成績ヲ總括シテ將來ノ参考トスベキ命ヲ受ケ、此処ニ主トシテ昭和十四年以降ノ實験考察ヲ羅列シ更ニ若干將來ニ對スル希望ヲ開陳シタ(後略)」との記述がある。右の記述は、七三一部隊が細菌戦の実施手段である雨下ないし撒布実験を繰り返して研究開発していたことを推認させる重要な証拠である。
 また「PXノ効果略算法」には「第一表 既往作戰効果概見表」があり、同表には、

①昭和十五年六月四日に吉林省農安においてペスト感染蚤五グラムを撒布したこと、

②昭和十五年六月四日ないし七日、吉林省農安・大賚においてペスト感染蚤一〇グラムを撒布したこと、

③昭和十五年十月四日、浙江省衢県においてペスト感染蚤八キログラムを撒布したこと、

④昭和十五年十月二十七日、浙江省寧波においてペスト感染蚤二キログラムを撒布したこと、

⑤昭和十六年十一月四日、湖南省常徳においてペスト感染蚤一・六キログラムを撒布したこと、

⑥昭和十七年八月十九日ないし二十一日、江西省広信、広豊、玉山においてペスト感染蚤一三一グラムを撒布したことを示している記述がある。右の記述は、七三一部隊が昭和十五年から昭和十七年にかけてペスト感染蚤を用いた細菌戦を中国国内で実施したことを強く推認させる重要な証拠である。


 右のように七三一部隊が細菌戦部隊であり、中国に対して細菌戦を実施したことを強く推認させる金子論文の存在が明らかになった現在、政府は同論文及びアジア歴史資料センターが公開している公文書等を研究対象として、七三一部隊の活動内容を検証する作業を、内外の歴史学等の研究者と協力して開始するべきであると認識するが、政府の見解を示されたい。
四 中国の細菌戦被害者は、七三一部隊が細菌戦を行ったことを未だ認めていない日本政府に対して強い不信と憤りを抱いており、七三一部隊・細菌戦問題は日中友好の大きな障害となっている。


 平成二十三年十一月、中国の細菌戦被害地の一つである湖南省常徳市では、細菌戦被害者が結成した「常徳市日軍細菌戦受害者協会」を同市政府が社会団体法人として許可し登録した。同協会の活動目的には、細菌戦被害者の謝罪と賠償を実現することが含まれている。政府は、同協会が中国の湖南省常徳市政府によって社会団体法人として許可され登録されたことを認識しているかどうか、明らかにされたい。
 右質問する。

平成二十四年八月三十一日受領
答弁第三七七号

  内閣衆質一八〇第三七七号
  平成二十四年八月三十一日
内閣総理大臣 野田佳彦

衆議院議員服部良一君提出七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関する質問に対する答弁書


一の1について
 いわゆる七三一部隊が旧日本軍の関東軍防疫給水部のことであることは、防衛研究所戦史研究センター史料室が保管している旧日本軍の関連資料から明らかとなっている。
 しかしながら、外務省、防衛省等の文書において、関東軍防疫給水部におけるお尋ねの「研究檢索」、「製造業務」及び「其ノ他危險ナル病原細菌」の具体的内容を示す資料は現時点まで確認されておらず、お尋ねにお答えすることは困難である。
一の2及び3について
 お尋ねについては、調査に膨大な時間を要することから、お答えすることは困難である。
一の4について
 現在、厚生労働省で保管する関東軍防疫給水部に係る留守名簿における人員の総数は、三千五百六十人であり、そのうち、将校百三十一人、准士官十八人、下士官百六十三人、兵千二十七人、技師五十人、技手百九十七人、雇員千二百七十人、傭人六百三十三人である。
 また、現在、同省で保管する関東軍防疫給水部に係る部隊略歴における昭和二十年六月時点の人員数は、ハルピン本部約千三百人、海拉爾支部約百六十五人、牡丹江支部約二百人、孫呉支部約百三十六人、林口支部約二百二十四人、大連支部約二百五十人であるが、将校、准士官、下士官、兵、技師、技手、雇員、傭人の別は記載されておらず不明である。
一の5について
 お尋ねの公文書については、政府として網羅的に把握しているわけではないが、防衛研究所戦史研究センター史料室に保管されている旧陸軍資料「人馬現員表(昭和十四年六月三十日調)」においては、関東軍防疫給水部の前身である関東軍防疫部の人員数は千百三十三名となっている。
二について
 外務省、防衛省等の文書において、関東軍防疫給水部による粉末寒天の購入や恩給の不健康業務加算の事由に該当する業務が細菌戦の準備のために行われていたことを示す資料は現時点まで確認されていない。
三について
 お尋ねの細菌戦に係る検証作業については、本件の性格や時間的な経過に鑑みれば、更なる調査を行い、明確な形で事実関係を断定することは極めて困難と考えるが、新たな事実が判明する場合には、歴史の事実として厳粛に受け止めていきたい。
四について
 お尋ねについては、「湖南省常徳市政府によって社会団体法人として許可され登録された」か否かについては承知していないが、「常徳市日軍細菌戦受害者協会」が昨年十一月に湖南省常徳市において設立されたことは、報道等により承知している。

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